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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)90号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願考案と第一引用例記載の考案との本件審決認定の相違点についてその認定判断を誤り、また、右相違点のほかに存する本願考案と第一引用例及び第二引用例記載の考案との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願考案をもつて右の各引用例記載の考案から極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。

前記本願考案の要旨に成立に争いのない甲第一号証の一ないし三(本願考案の願書、願書添附の明細書及び図面)並びに第二号証の一ないし三(手続補正書)を総合すると、(1)本願考案は、ポンプ室を備えたタンクに関するものであるところ、タンク等の大型容器は、これを初めから一体に作り上げないで、単位板に分けて作つておくのが便利であり、このような考え方に基づいて、直角四辺形の基板の四周に直立接合縁だけを設けてなる単位板や、直角四辺形の基板の四周に傾斜接合縁を設け、その先に直立接合縁を設けてなる単位板が提案され、タンクは、このような単位板で組み立てられていたものであるが、従来、タンクに液体を送り込んだり、タンクから液体を排出したりするためのポンプをタンクに付設するには、タンク外に別棟のポンプ室を設け、ポンプ室にポンプと必要な電気設備とを収容し、タンクとポンプ室とを配管で結ぶのが普通であつたけれども、このような方法によるときは、タンクとポンプ室との間にタンク壁点検用の余分な空間を必要とし、また、タンクとポンプ室とを結ぶために余分の配管材料を必要とし、更に、タンク組立用材料以外にポンプ室構成用材料を必要とするという欠点があつたこと、(2)本願考案の考案者は、右の欠点を改善するために、タンクの一部を仕切つて、そこに開口部、ドア及び通風口を設け、これをポンプ室として用いることを考え、また、仕切るのにタンクを構成している単位板と同種の単位板を用い、単位板の接合縁をポンプ室側に向けておくと、ポンプ室内で接合縁の突出を利用して種々のものを固定するのに好都合であることに気付き、このような考え方に基づいて本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したこと、(3)本願考案は、右の構成のとおり、タンク内に仕切壁を付設してタンク内を二室に分け、一方を貯液室とし、他方をポンプ室としたので、別棟のポンプ室を設ける必要がなく、それゆえ、タンクとポンプ室との間の余分な空間及びタンクとポンプ室とを結ぶための余分な配管材料を必要とせず、また、仕切壁が貯液室の壁とポンプ室の壁を兼ねているので、材料の節約になり、更に、貯液室とポンプ室とを同種の単位板から組み立てることができるので、ポンプ室構成のために特別の材料を必要とせず、更にまた、仕切壁では、単位板の接合縁をポンプ室側に向けたので、ポンプ室内では、仕切壁の突出した接合縁を利用して、配電盤その他各種のものを固定することができ、なお、接合縁がポンプ室側に突出しているので、中仕切壁に水漏れがあつた場合、ポンプ室側でボルトナツトを緊締することにより、水漏れを防ぐことができるため、タンクの保守管理が容易であり、なお更に、従来、組立式タンクの側壁にドアが付設され、出入口とされることはなかつたが、本願考案では、タンクのポンプ室部分の側壁に開口部及びドアを付設して、これを出入口としたので、ポンプ室へ自由に出入りすることができ、しかも、ポンプ室のドア又は側壁に換気口を設けたので、ポンプ室の通風がよい、という作用効果を奏するものであることが認められる。他方、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例は、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物であることが認められ、それに、本件審決認定どおりの受水槽ユニツトの構成が記載されていることは原告の自認するところである(なお、前掲甲第四号証によると、受水槽と制御室とは、仕切壁によつて二分されていることが認められる。)。

以上の事実に基づき、本願考案と第一引用例記載の考案とを対比考察するに、両者は、本件審決認定の前記<1>ないし<4>の点において相違する(この点は、原告の認めるところである。)ほか、更に、<5>仕切壁によつてタンクを二分している一方の室が、本願考案では、ポンプ室であるのに対し、第一引用例記載の考案では、制御室である点においても相違するものというべきである。そこで、まず、(1)右の相違点<1>についてみるに、第一引用例には、合成樹脂若しくはそれと同等の防水性を有する材料をもつて受水槽(本願考案にいう貯液室に相当)と制御室とを一体的に形成し、両者を仕切壁(本願考案にいう仕切壁に相当)によつて二分した受水槽ユニツト(本願考案にいうタンクに相当)が記載されており、また、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願考案の実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物であることが認められ、本件審決認定のとおりのタンクの構成が第二引用例に記載されていることは原告の自認するところ、第二引用例記載のタンクの形成材料である単位板は、第二引用例の記載内容に照らし、タンクに仕切壁があるか否かにかかわらず、タンク一般の側壁の形成材料となり得るものとみられること、第一引用例記載の受水槽ユニツトは、その側壁の形成材料を単位板に換えても、受水槽ユニツトとしての機能に変わりがないこと、及び第一引用例及び第二引用例記載の側壁の形成材料は、いずれもタンクの側壁の形成材料として一般的なものであることなどの点を考慮すると、第一引用例記載の受水槽ユニツトの受水槽及び制御室の側壁に第二引用例記載のタンクの構成を採用して、その側壁を、直角四辺形の基板の四周に接合縁を設けたものを単位板とし、接合縁を外側に向けて単位板を多数並べ、接合縁により単位板を互いに接続して構成することは、当業者にとつて極めて容易なことであると認められ、次に(2)前記の相違点<2>についてみるに、第一引用例。記載の受水槽及び制御室の側壁を第二引用例記載の単位板をもつて形成することが、前示のとおり、当業者にとつて極めて容易である以上、第一引用例記載の受水槽ユニツトの仕切壁を側壁と同じく単位板をもつて形成することも、当業者にとつては極めて容易なことであると認められ、また、仕切壁を単位板で形成する場合に、単位板の接合縁を受水槽の内側又は外側に向けて配置することは、いずれも第二引用例の第2図にみられるとおり可能であり、しかも、単位板をもつて仕切壁を形成したタンクにおいて、仕切壁の接合縁を受水槽の内側又は外側のいずれかに向けて配置することは、当業者が任意になし得る選択事項であるということができるから、第一引用例記載の受水槽ユニツトの仕切壁を単位板をもつて形成し、かつ、その接合縁をポンプ室側に向けて配置することも、当業者が極めて容易になし得ることといわざるを得ない。更に、(3)前記の相違点<3>についてみると、第一引用例記載の受水槽ユニツトの側壁にドアが付設されていることは原告の自認するところ、側壁を単位板で構成した場合に、ドアに相当する大きさの開口部を設けることが必要となり、そのためには、側壁を形成する単位板を取り除くことが最も簡易な手段であるということができ、その際、単位板を何個取り除くかは、単位板の大きさ及びドアの大きさによつて定まることであつて、一個又は二個以上になることは明らかであるから、第一引用例記載の受水槽ユニツトの側壁に単位板を用いるとすれば、単位板を一個又は二個以上取り除いてそこにドアを付設することもまた、当業者にとつて極めて容易になし得ることであるということができ、更にまた、(4)前記の相違点<4>についてみるに、第一引用例記載の受水槽ユニツトにおいても、換気口が設けられていることは原告の自認するところ、これをドア又は側壁に穿設することは、慣用の技術手段であるということができるから、第一引用例記載の受水槽ユニツトにおいて、右の慣用の技術手段を採用することは、当業者にとつて極めて容易になし得ることというべきであり、なお、(5)前記の相違点<5>についてみるに、第一引用例記載の受水槽ユニツトは、受水槽と制御室とが仕切壁によつて二分され、受水槽内に水中ポンプが設置され、制御室内に制御装置盤等が取り付けられているものであるところ、本願考案に関する前認定の事実によると、従来、タンクに液体を送り込んだり、タンクから液体を排出したりするためにはポンプが用いられ、ポンプをタンクに付設するには、タンク外に別棟のポンプ室を設け、ポンプ室にポンプと必要な電気設備とを収容し、タンクとポンプ室とを配管で結ぶのが普通であつたというのであるから、第一引用例記載の受水槽ユニツトにおいて、水中ポンプ以外のポンプを用いることも考えられ、その場合に、別棟のポンプ室を設けるかどうかを含めて、ポンプをどこに設置するかが当然問題となるが、第一引用例記載の受水槽ユニツトの制御室にはポンプの制御装置盤等が取り付けられていること、そこにポンプを設置する妨げとなるようなそのほかの装置の設置が意図されているとも認められないこと(別紙図面(二)参照)などの諸事情に照らすと、別棟のポンプ室を設けないで、制御室にポンプを設置することが最も適切であるということができ、また、制御室にポンプを設置すると、制御装置盤等に何らかの影響があるとしても、適切な対策を講じることによつてその影響をなくすことが可能であると解されるから、第一引用例記載の受水槽ユニツトにおいて、その制御室にポンプを設置してポンプ室として使用することは、当業者が極めて容易に想到し得ることというべきである。この点に関し、原告は、制御室とポンプ室とは全く別個のものであつて、制御室をもつてポンプ室に相当するということはできず、また、振動や湿気を嫌う制御室にポンプを設置するということは考えられないことであるから、第一引用例記載の制御室をもつて本願考案のポンプ室に相当するとした本件審決の認定判断は誤つており、また、第一引用例記載の考案に基づいて、ポンプ室を設けるという本願考案に想到することが極めて容易であるということもできない旨主張する。しかしながら、制御室とポンプ室とが概念上別個のものであつて、本件審決の右認定判断自体が誤りであるとしても、第一引用例記載の受水槽ユニツトの制御室にポンプを設置することが格別の困難を伴うものでないことは、前説示のとおりであるから、本件審決の右認定判断の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことは明らかであり、また、仮に、ポンプを設置した場合に、振動が発生したり、漏水によつて湿り勝ちになつたりするおそれがあるとしても、ポンプ、配管あるいは制御装置盤等に振動あるいは漏水が生じないよう適宜の対策を講ずれば、たやすくこれを防止し得るものというべきであつて、制御室にポンプを設置してポンプ室として使用することが当業者にとつて極めて容易に想到し得ないことであるということはできないから、原告の右主張は、採用の限りでない。次に、原告は、第一引用例記載の考案の受水槽及び制御室の側壁並びに仕切壁は貼合板で形成されているところ、これを第二引用例記載の考案の単位板で形成することは極めて容易なことではない旨主張するが、たとい、第一引用例記載の考案の側壁及び仕切壁が原告主張のような貼合板で形成されているものであるとしても、第二引用例記載の考案の単位板がタンクの側壁の形成材料として一般的なものである以上、これを第一引用例記載の考案の側壁及び仕切壁の形成材料として用いることに困難性があるものと認められないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができない。更に、原告は、第一引用例記載の考案の制御室は、その側壁を右のように貼合板で構成しているほか、床に防振ゴム座を敷いて、その上に制御装置盤を置くなど気配りをして構成しているので、この側壁を単位板により構成して簡単なものにすることは、当業者が極めて容易に想到することのできることではない旨主張するが、仮に、第一引用例記載の制御室が原告主張のような構成のものであるとしても、制御室の側壁の形成材料として単位板を用いた場合に原告主張のような構成を採用することが困難であるものとは認められないから、第一引用例記載の考案の制御室が原告主張のような構成を採用していることを理由として、第一引用例記載の考案の制御室の側壁の形成材料として単位板を用いることが困難であるということはできず、したがつて、原告の右主張も、採用するに値しない。更にまた、原告は、本願考案は、仕切壁を構成する単位板の接合縁をポンプ室側に向けて配置したことにより、ポンプ室において接合縁にスイツチや工具を固定し得る等の利便を有するものであつて、接合縁をポンプ室側に向けるか、その逆にするかは単なる選択事項ではないから、単なる選択事項であるとした本件審決の認定判断は誤つている旨主張するところ、本願考案が右の構成を採用したことにより右の効果を奏することは、前認定のとおりであるが、単位板をもつて仕切壁を形成する場合に、その接合縁を受水槽の内側又は外側のいずれかに向けて配置することが当業者の任意になし得る選択事項であることは、前説示のとおりであつて、右の効果も接合縁を受水槽の外側に向けて配置することを選択したことによる当然の効果であるにすぎないから、原告の右主張も、採用するに由ないものといわざるを得ない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

直角四辺形の基板の四周に接合縁を設けたものを単位板とし、接合縁を外側に向けて単位板を多数並べ、接合縁により単位板を互いに接続して側壁を構成したタンクにおいて、タンク内に上記単位板を並べて仕切壁とし、仕切壁によつてタンク内を貯液室とポンプ室とに二分し、その際仕切壁を構成する単位板の接合縁をポンプ室がわに向けて配置し、ポンプ室における側壁の単位板を一個又は二個以上取除き、そこにドアを付設し、ドア又は側壁に換気口を穿設してなる、ポンプ室を備えたタンク。

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